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【内面から滲み出てくるものを伝えられる歌舞伎俳優でありたい。】
歌舞伎界期待の若手女方 (わかておんながた) として多彩な役どころを見事にこなしながら、軸のしっかりした正統派を貫き、次代の歌舞伎界を担う俳優へと成長する中村梅枝 (なかむらばいし) さん。
平成28年10月2日(日)~10月26日(水)の「錦秋名古屋 顔見世」では、女方のみならず立役にも挑み、幅広い演技を披露します。
その公演を控えた9月のある日、歌舞伎座に梅枝さんを訪ね、歌舞伎への想いや「錦秋名古屋 顔見世」公演についてお話を伺いました。

中村梅枝さんのインタビュー動画
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歌舞伎が届ける時代のエネルギー

歌舞伎俳優になるというお気持ちは、いつ頃に芽生えたのでしょうか

幼少期から舞台に立たせて頂いていますが、歌舞伎俳優の中ではそこまで多い方ではありませんでした。もちろん、一般家庭とは違うという宿命的なことは分かっていましたが、父も家庭に歌舞伎を持ち込むタイプではなかったですし、小さい頃はそれ程歌舞伎に興味を持っていなかったですね(笑)。

「どんなものも歌舞伎にしてしまう懐の深さが、歌舞伎の大きな魅力です。」

転機は高校時代でした。子役から脱して大人が演じる役を頂けるようになり、初めて歌舞伎の世界で演じることの面白さに気づき、役を重ねるごとに、難しさと面白さ、その両方にはまっていきました。

「歌舞伎の世界」は、一般にハードルが高いと受け止められがちですが、400年以上もの長きにわたって大きな人気を博してきたのも歌舞伎の紛れもない姿ですね。演じるようになって分かった歌舞伎の魅力をお聞かせ下さい

ひとことで言うなら、懐が深いところでしょう。歌舞伎の大半が見取り狂言と言って、色々なお芝居の中の一場面を3、4話演じる構成になっています。その中には、時代物があり、世話物、新作歌舞伎、踊りもあります。

また、最近では、私も出演させて頂いた「あらしのよるに」や人気漫画「ワンピース」といった新作歌舞伎も上演し、大きな話題となっています。こういった、一見、歌舞伎に似つかわしくないと思える絵本や漫画が原作の作品でも、伝統の中で築かれた基礎や土台がしっかりしているので、ちゃんと歌舞伎の世界に落とし込むことができる。そこが、歌舞伎の大きな魅力であり面白さだと思います。

江戸時代には当時の現代劇と言える「世話物」がある程、歌舞伎は、昔から人々の関心が高いものを積極的に取り入れてきた歴史がありますね

ええ。そういった革新的な部分を取り入れながら、伝統的な古典を大切にして歌舞伎俳優にしかできない世界をつくり上げていくことが歌舞伎ですから、我々若手がその魅力を絶やさないように、先輩方が演じる素晴らしい古典を今しっかりと見て学んでおかないといけないと強く感じています。

歌舞伎を楽しむコツ

「錦秋名古屋 顔見世」が歌舞伎デビューいう方もおられると思います。
初心者の方に、歌舞伎の楽しみ方についてアドバイスを頂けますか

最初にお話したように、歌舞伎の舞台は長いお芝居の人気の場面を切り取って上演しますので、お客様がある程度、話の筋を知っているという前提で展開していきます。例えば、『寺子屋』は『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』という芝居の一場面です。加えて、セリフは江戸時代の言葉が多く、言葉が分からないために入り込めないということがあるかと思います。

「物語全体のストーリーを知って観ると、より味わい深く楽しめます」

そこで、観劇前に、それぞれの演目の全体のあらすじをちょっと頭に入れて来て頂けると、「ここは今こういうことを言っているのだろう」とイメージしやすく、より楽しめると思います。

また、ストーリーとともに、「目に飛び込んでくるものをとにかく楽しむ」というのも歌舞伎観劇ならではの楽しみ方だと思います。舞台面の綺麗さだったり、衣裳やカツラだったり、歌舞伎でしか味わえない豪華絢爛さをたっぷりと味わって頂くといいのではないでしょうか。

歌舞伎俳優として日頃から心がけていること

お父様の中村時蔵さんから教えて頂いた一番のことは何でしょうか

父からは常々「品良くしていなさい」と教えられてきました。そういう父も祖父(三代目 時蔵)からどんな役柄でも「品がなくちゃだめだ」と言われていたそうです。私の場合、お姫様や武家女房などの役柄を演じることがありますが、彼女達は小さい頃から教養や立ち居振舞いを叩き込まれて育っているわけですから、演じる俳優も小さい頃から育んできた品格が滲み出てこないとなかなか良い演技はできません。

「小さい頃から品を大切にしなさいと教えられてきました」

そういったことから、私生活でもあまり品のないことはしないように心がけているつもりです。

「女方」と「立役」の両方を演じる歌舞伎俳優として心がけておられることは?

男性が女性の役を演じる演劇は世界でもまず見当たりません。女方は歌舞伎ならではの存在です。昔は着物を着ている女性が身近にたくさんいらっしゃったので、女方の俳優さん達はそういった日常から歩き方やお茶の飲み方、お酒の注ぎ方などを勉強されていたようです。

現代は、なかなかそういう方達がまわりにいらっしゃいませんので、女方の先輩方の立ち居振る舞いなどをしっかりと学び、逆に古風で奥ゆかしい女性の美しい所作を舞台で堪能(たんのう)して頂けたら嬉しいです。
男性の立役を演じるときには、女方をやっているからこそ、立役の俳優には出せない色気ややわらかみを引き出せるので、そういったところも観て頂ければと思っています。

女方として演じてみたい女性はいますか

私が大好きな『鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』という作品に「お初」という女性が出てきます。彼女は「尾上(おのえ)」という中老に仕える下女で、頭も良くて武芸も嗜んでいて、尾上のために生き、そして尾上が辱めを受けて自害したあと、その敵を討つという、とてもかっこいい女性なのです。最近は滅多に歌舞伎で上演されない作品ですが、お初はぜひ一度演じてみたい女性です。

歌舞伎が届ける時代のエネルギー

今回の「錦秋名古屋 顔見世」でも、歌舞伎の懐の深さが分かる様々な役を演じられますね

昼の部で『ぢいさんばあさん』、夜の部では『寺子屋』、『品川心中』に出演させて頂きます。 『ぢいさんばあさん』は、原作が森鴎外の短編小説で、ひょんなことから離ればなれになってしまった「伊織(いおり)」と「るん」夫婦が、37年ぶりに再会するという心温まる夫婦の物語です。

「多彩な役どころに挑戦しています」

私は、伊織の甥っ子で、「宮重久弥(みやしげきゅうや)」という役を演じますが、これは初役で、しかも普段あまり演じない立役ですので今から緊張しています。このお芝居では、夫婦が離ればなれになるきっかけとなった伊織が人を斬ってしまうところで幕が閉じ、次の幕が上がるともう37年経っている設定になっています。おじいちゃんおばあちゃんになった伊織とるんが、私達久弥夫婦を見て、若かりし頃の自分達を思い出す。一方で、伊織が人を斬った背景には久弥の父が関係しており、久弥には単に叔父夫婦というだけではない伊織夫婦への特別な思いもあり、舞台には出てこない37年の歳月をどう演じているかに注目してほしいですね。

次に『寺子屋』は、歌舞伎の中でも特に上演回数も多く、歌舞伎俳優なら誰もが一度は演じたことのある芝居で、一生勉強しても足りないくらいの大きな演目です。私は寺子屋を営む「武部源蔵(たけべげんぞう)」の妻の「戸浪(となみ)」という役で、今回で演じるのは3回目となります。初演のときは、旦那の「源蔵」を市川海老蔵さん、2回目は尾上松緑さんが演じられたのですが、お二人の源蔵のやり方は全く違っており、私もそれぞれの演じ方に合わせて演じさせて頂きました。そして今回の源蔵は、市川染五郎さんです。ぜひ一度、染五郎さんとの『寺子屋』をやってみたいという思いが叶い、私自身とても楽しみにしていますが、歌舞伎は、俳優の考え方で、ガラリと演じ方が変わるところも面白さですから、今回、どういった源蔵夫婦になるのかを楽しんで頂ければと思います。

そして『品川心中』は、落語が題材の世話狂言で、名古屋では初上演となります。私が演じる「おたね」は、主人公の女房ですが、もともと落語には登場しない人物。そこをどうつくっていくかというところを思案しています。落語らしい面白おかしいお話の中で、博打やお座敷遊びが好きな主人公を諌(いさ)める女房役を演じます。仕事もせず遊び呆ける旦那の「一八」との喧嘩は絶えないけれど、旦那に惚れていて見捨てることができない世話女房の可愛さが伝わるよう演じたいと思っています。

「錦秋名古屋 顔見世」に来られるお客様へのメッセージ

最後に今回の舞台への意気込みと、公演を楽しみにしている方々へのメッセージをお願いします。

たくさんのお客様が1年に1回の「顔見世」公演を楽しみにして下さり、本当にありがたく感謝しています。 私自身、金山(特殊陶業市民会館)での舞台は、2回目となります。

「宝石箱のような芝居を披露します」

金山でも花道はしっかりありますし、舞台も広く、歌舞伎の豪華絢爛な演出を存分に味わって頂けると思います。 今回は、昼の部に『橋弁慶』、夜の部には『英執着獅子(はなぶさしゅうちゃくじし)』とそれぞれ踊りを披露するとともに、『壺坂霊験期(つぼさかれいげんき)』のような心温まるお話があり、さらに初心者の方にも肩肘張らず見て頂ける『品川心中』も含め、昼も夜もそれぞれに楽しんで頂ける内容になっています。
名古屋をはじめ中部地区の歌舞伎ファンの方のために精進して参りますので、ぜひお越し下さい。

中村梅枝さんプロフィール

萬屋(よろずや)。昭和62年11月22日生。中村時蔵の長男。弟は萬太郎。平成3年6月歌舞伎座『人情裏長屋』の鶴之助で初お目見得。
平成6年6月歌舞伎座<四代目中村時蔵三十三回忌追善>の『幡随長兵衛』の倅(せがれ)長松と『道行旅路の嫁入』の旅の若者で四代目中村梅枝を襲名し初舞台。平成24年12月新橋演舞場『籠釣瓶花街酔醒』の兵庫屋九重他で名題昇進。平成7年11月国立劇場特別賞、平成17年10月、18年12月、22年1月、23年10月同奨励賞。平成21年3月、27年1・7月、28年6月同優秀賞。

中村梅枝
協力:御園座/歌舞伎座