平成29年10月1日より、日本特殊陶業市民会館ビレッジホール(名古屋市中区)にて上演された「錦秋名古屋顔見世」の魅力や楽しみ方をご紹介します。

ここ名古屋に秋の訪れを感じさせるのは、毎年10月に行なわれる歌舞伎の祭典「顔見世(かおみせ)」です。玄関口に並ぶ勘亭流という特殊な書体で書かれた「まねき(出演する役者の名前が記載されている木の板)」がずらり。なお、「まねき」の書体には、字画の隙間を狭くすることで「大入り(満員になること)になるように」という書き手の願い、歌舞伎役者の願い、それにかかわるすべての人たちの願いが込められています。
まず、歌舞伎に慣れたいという方は「顔見世」から始めてみましょう。1演目の時間は1時間程度です。昼の部と夜の部に分けられており、それぞれ3演目ずつ(計6演目)上演されます。「顔見世」は、かつて1年ごとに芝居小屋と専属契約を結んだ役者たちをお披露目する場でした。そのため、「芝居界の正月」と呼んでいるお客さんも居たようです。このような契約はなくなりましたが、「お披露目」という部分では変わりません。現代風にアレンジが加えられた演目や古き良き演目などが工夫し上演されており、豪華な顔ぶれも揃います。
歌舞伎を見たことがないという方、独特の言い回しや表現が分からないという方でも歌舞伎は楽しめます。初めてでも、歌舞伎観劇にて「あっ分かる」と思える楽しみ方があるのでご紹介します。

演目を理解するには、まず予習をすること。話のあらすじを読むだけでも歌舞伎はぐんと鑑賞しやすくなります。特に劇場で販売しているパンフレットには、話の細かいあらすじはもちろん、役者の屋号やこれまでに演じてきた役どころなどについても、細かく書かれているのでおすすめです。なお、チケット購入時に頂ける、チラシの裏面にも大まかなあらすじが掲載されているので、こちらを読むだけでも歌舞伎は楽しめます。
歌舞伎では、喜び、悲しみや怒りなどが三味線や小太鼓、唄、音などで表現されています。ですので、歌舞伎言葉が分からなくても、流れる音に耳を傾けてみて下さい。悲しんでいるときには悲しい三味線の音が、怒っているときには力強く足を踏む音が、嬉しいときには華やかな唄や小太鼓・三味線の音が聞こえてきます。
芝居を演じる役者の心情を理解することは歌舞伎を観劇する上でとても重要。役者の心情が分かると歌舞伎鑑賞はとてもスムーズになるでしょう。しかし、細やかな心情まで読み取るのは困難です。そこで役立つのが、貸し出しされているイヤホンガイド(レンタル料+保証金が必要。保証金は返却時に返金されます)。イヤホンガイドは、場面ごとにどのような心情であるかを詳しく解説してくれるので、初心者でも歌舞伎が楽しめます。

芸どころ名古屋の火を灯し続けている「御園座(名古屋市中区)」。昭和29年6月に「東西に負けない一流の劇場を造りたい」という創業者の想いから「御園座」は誕生しました。しかし、時は流れて2013年(平成25年)。老朽化が進み建替えることに。建替えるにあたって、続いていた名古屋での歌舞伎はどこで上演するのかという問題が浮上しました。芸どころ名古屋として上演してきた歌舞伎を一時中断しなければなりません。
そんなときに同区にある金山の「日本特殊陶業市民会館」が芸どころの火を消すまいと「御園座」をバックアップしました。これにより、建替えまでの5年間、芸どころ名古屋の歌舞伎は守られています。歌舞伎が金山の「日本特殊陶業市民会館」で鑑賞できる機会は2017年が最後。このような理由から出演する役者を始め、歌舞伎ファンや関係者の2017年「錦秋名古屋顔見世」のキャッチフレーズは「ありがとう金山」になっています。
協力:御園座